サバンナのガキ大将
地平線まで見渡せる広い大地の一本道。
悪路の振動に揺られながら、象、キリン、シマウマを避けつつサバンナをひた走る。草原の真ん中で車を停めエンジンを切ると、あたりはシーンと静まりかえった。風が草を揺らす音や、鳥のさえずりだけが時おり耳元を通り過ぎる。地平線に目を凝らすと、草原の遥か彼方にぽつん、ぽつんと小さな人影が見え隠れした。豆粒のようだった人影は次第に大きくなり、やがてヤギを放牧させている子どもたちの姿が浮かび上がった。サバンナの住人、マサイの子どもたちだ。いっぱしに赤いマントを羽織い、棒を手にヤギの群れを追いながら歩いている。車に気付いた彼らは、こちらを指差し、何かを話し合っている様子だ。間もなくひとり、またひとりと我々に向かって荒野を駆けてくる。ヤギは遠くに置き去りにされたままだ。車から降りた私は、あっという間に小さな戦士予備軍たちに取り囲まれた。
「写真を撮ってもいいかな?」 カメラを指差しながらそう話し掛けたとたん、わーっと飛び上がる子どもたち。しかし、その興奮をさっと手で制する少年がいた。背が高く、ガキ大将の風格を備えた少年だ。歳のころは一〇歳ほどだろうか。彼は鷹のような目で私をじっと見る。怪しい者かどうか吟味しているらしい。一瞬、我々の間に緊張が漂った。私はポケットに風船を入れていたことを思い出し、取り出すと思い切りふーっと息を吹き込んだ。大きく膨らんだ黄色い風船は、手を離すと風に乗って青空に舞い上がった。子どもたちは歓声を上げそれを追いかける。いち早く追いついたガキ大将は、風船を手にこちらを振り向くと、威厳を保ちながらも私に目で合図した。「好きにしたらいい」風船の仁義だ。ガキ大将の許可を得て、しばし時の経つのも忘れて撮影に熱中した。風と大地の子どもたち。その目は野性的な生命力に満ちていた。
お兄ちゃんのような立派な戦士になる日も、そう遠くない。