船を見送る
カメルーンの旅の最後に、突然、海が見たくなった。
カメルーンの北の果てから三日間車を走らせて、ついに大西洋が見えたときには感無量だった。このあたりの暑さといったら、目の前が霞んでくるような灼熱地獄だ。木陰にじっとしていても、汗が体中を滴り落ちる。ヤシの木が生い茂る平和な村を歩き回っていると、あちこちから声がかかる。「やあ、何をしているんだい」「どこから来たのかね」「ちょっと寄っておいきよ。ちょうどお昼ごはんを食べるところだからさ」おばちゃんたちは威勢がよくて元気がいい。赤ん坊をおぶって畑仕事をしたり、食事のしたく、洗濯、子どもの世話と、この暑さの中で実によく働く。男たちはどうしたのかな、と不思議になって見回すと、誰もが一様に、木陰でお昼寝中。 あまりの暑さに耐え切れず、海風に当たれば少しは涼くなるかと浜辺に出てみるが、幾分ましに思える程度で、相変わらず滝のような汗が噴き出てくる。高い湿度で空はどんよりと曇り、青空はその片鱗も見えない。灰色の海の水面が銀色にギラギラと光っている。子どもたちが裸になって波に向かってザブザブと走っていく。小さな板切れで波乗りをして遊ぶ子どももいる。夕方になって、村の男たちが浜にやってきて漁に出る準備をはじめた。昼寝ばかりして怠けているように見えたお父ちゃんたち、実は夜の仕事に備えていたのだ。木で出来た小さな船を波に向かって押していく。わっしょい、わっしょい。子どもたちが後ろからお父ちゃんに声援を送る。やがてお父ちゃんを乗せた小船は、荒波にもまれながら大海へと出て行った。
その姿を、子どもたちがたたずんでじっと見つめていた。