満月の夜に

フルべは、主に牛やヤギなどを放牧させながら、乾燥地で農業を営み、西アフリカに広く居住する民族だ。
定住せずに、遊牧生活を送る人々もいる。カメルーンを北上していくと、フルべの人々の独特な顔立ちや色鮮やかな衣装を見かけるようになってきた。にぎやかな市場の中でも、彼らの姿は一段と目を引く。フルべの人々の村を訪ねてみたいと思い、共に旅をしていたカメルーン人のアントワンに聞いてみるが、彼らは他の民族と交わらないので、同じカメルーン国民でもどんな人々なのかまったく知らない、という。フルべの人々が多く住むエリアの町で聞いてみても、フルべと言ったとたんに、誰もが首を横に振った。情報を聞きに行った教会の神父など、「フルべの村に行くだって?排他的で気性の荒い人々だよ。どんな目に合うかわからないから、やめておけ」と言う。ますますフルべの謎が深まる。そうなると、どうしても行きたくなるのがいつものクセだ。フルべの人々は町から遠く離れ、道路から奥に入った荒野に小さな集落を作って暮らしているので、彼らの村を見つけるのは容易ではなかった。牛の水場にやってきた青年に話をして、彼の村に連れて行ってもらうことになり、牛の群れの後について延々と歩いた。その末に、乾いた草むらの中に埋もれるようにして、忽然と家々が現われた。シンプルですっきりとした美しい家々に、ヘチマの蔓がからみ、一面に黄色い花を咲かせている。テントを張らせてもらえないだろうか、と長老に願い出ると、快く承諾してくれた。一夜あけて翌日、長老が私たちを呼び、家の前の木陰に誘った。何だろうと思いながら付いて行くと、長老は木陰に置いたホウロウのたらいを指差した。それを覗き込んで、驚いた。中には、屠殺されたばかりのヤギの肉がぎっちりと詰まっていた。
「遠いところから来た客人よ、あなたたちを心から歓迎します。あなたがたを私たちのもとに連れてきてくれた神に感謝します。ここにいる間は、食べ物の心配をせずに、ゆっくり休んでいって欲しい」乾燥地で厳しい放牧生活を送る人々にとって、家畜は何にも替えられない大切な財産だ。勝手な想いでやってきた異邦人を、なぜこれほどまでに暖かく迎えてくれるのだろうか。礼を言おうにも、涙が喉につまって言葉がうまく出てこない。その夜はまた宴会だ。ヤギの内臓を焼き、肉をシチューにして、皆で火の回りに丸くなって食べる。彫りの深いフルべの人々の笑顔が、焚き火に照らし出された。
空には満月がぽっかりと浮かんでいた。